訪問診療では自宅(患家)以外にも様々な場所に赴いて診療を行います。訪問先での治療に際して「歯科訪問診療料」を算定できるかどうか、また、その他の在宅医療にかかる処置や加算項目の算定の可否は、訪問先の種類に依存する場合が多々あります。
しかしながら、その名称や分類は、あまり整理されておりません。これには、老人や障害者が暮らす場所の法的な裏付けに医療保険法、介護保険法、障害者総合支援法、老人福祉法、社会福祉法、児童福祉法などの非常に多くの法律が複雑に絡んでいるという事情があります。
そこで、このぺージではまず訪問先の名称や分類、簡単な解説をしていきます。
歯科診療報酬点数表における訪問診療(在宅医療)の条件は次の通りです。
このうち訪問先として妥当であるかどうかは「在宅等」の状態であって、かつ「継続的な歯科診療が必要」であるかどうかで判断されます。
「在宅等」の定義は、以下の通りです。
上記の定義は面倒な言い回しなのですが、簡単にいうと「患者が寝泊まりしているところ」なら訪問診療が基本的に認められているということです。
「介護老人保健施設、特別養護老人ホーム等」には様々な介護施設や福祉施設を含みますが、「患者が寝泊まりしているところ」しか認められませんので、デイサービスのように、その施設に日中に通って(通所といいます。)いる時に歯痛等で訪問しても訪問診療にはなりません。
医科ではこのような緊急対応的な治療は「往診」という扱いで「訪問診療」とは区別されていますが、歯科の場合「往診」がありませんので、治療した場合は通常の院内での診療と同じ扱いになります。
ショートステイ(短期入所生活介護等)は一時的に短期間だけ施設に入所して数日間、寝泊まりするものです。
寝泊まりしているところへの訪問診療ですので、ショートステイ先への訪問診療は基本的には認められるものですが、「継続的な歯科診療が必要な場合」という訪問診療の条件に抵触します。
「継続的」というのは、計画的に複数回の診療をすることですので、2、3日の入所時に1回だけ訪問して処置をした場合は、認めないという場合が多いです。
ただ、ショートステイといっても30日程度の比較的長期間利用する場合も、あるいは、週の決まった曜日に定期的、継続的に利用する場合もあります。このような場合は、継続的で計画的な歯科診療が可能ですので、一概にショートステイだから算定不可というわけではありません。
このような場合、管轄の厚生局や自治体のしかるべき部署に確認したうえで、対応されたほうがいいでしょう。
訪問可能な訪問先は、点数表では「介護老人保健施設、特別養護老人ホーム等」と書いてありますが、「等」には非常に多くの種類があります。以下に表にまとめます。
名称 | 別名 | 分類 | *1 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
自宅 | 患家・居宅 | 居宅 | ||
病院 | 入院 | 歯科が無い場合、周術期の治療の場合 | ||
サービス付き高齢者向け住宅 | 居宅 | X | ||
有料老人ホーム | 介護付き有料老人ホーム 特定施設入居者生活介護 |
居宅 | X | |
養護老人ホーム | 特定施設入居者生活介護 | 居宅 | X | |
軽費老人ホーム | ケアハウス 特定施設入居者生活介護 |
居宅 | X | 軽費老人ホームA型のみ*1の対象 |
認知症高齢者グループホーム | グループホーム 認知症対応型共同生活介護 |
居宅 | X | |
特別養護老人ホーム | 介護老人福祉施設 特養 |
入所 | X | |
老人保健施設 | 介護老人保健施設 老健 |
入所 | X | |
介護療養型医療施設 | 介護療養病床 介護医療院 |
入院 | 転換中。今後、介護医療院へと変わる。 | |
介護医療院 | 入院 | X | ||
障害者支援施設(入所) | 施設入所支援 共同生活援助(グループホーム) 更生施設・療護施設・授産施設など |
入所 | ||
身体障害者更生施設(入所) | 障害者支援施設 | 入所 | 障害者支援施設へ改組 | |
身体障害者療護施設(入所) | 障害者支援施設 | 入所 | 障害者支援施設へ改組 | |
身体障害者授産施設(入所) | 障害者支援施設 | 入所 | 障害者支援施設へ改組 | |
知的障害者更生施設(入所) | 障害者支援施設 | 入所 | 障害者支援施設へ改組 | |
知的障害者授産施設(入所) | 障害者支援施設 | 入所 | 障害者支援施設へ改組 | |
精神障害者生活訓練施設(入所) | 障害者支援施設 | 入所 | 障害者支援施設へ改組 | |
精神障害者授産施設(入所) | 障害者支援施設 | 入所 | 障害者支援施設へ改組 | |
福祉ホーム | 障害者支援施設 (身体、知的、精神)障害者福祉ホーム |
入所 | ||
障害児入所施設(福祉型・医療型) | 入所 | |||
更生施設(入所) | 入所 | |||
(介護予防)短期入所生活介護 | ショートステイ | 入所 | X | |
(介護予防)短期入所療養介護 | ショートステイ | 入所 | X | |
小規模多機能型居宅介護(宿泊) | ショートステイ | 居宅 |
*1 訪問歯科衛生指導料・介護保険の単一建物の戸数の10%以下、20戸未満の2名以下の例外が適用されない訪問先は「X」
歯科診療報酬点数表では「在宅」と「在宅等」と使いわけがされており、両者には明確な違いがあります。
特定施設入居者生活介護は、利用者が可能な限り自立した日常生活を送ることができるよう、指定を受けた有料老人ホームや軽費老人ホームなど(特定施設)が、食事や入浴などの日常生活上の支援や、機能訓練などを提供すること。
対象となる施設は有料老人ホーム、養護老人ホーム、軽費老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅(有料老人ホームに該当するもの)
この指定を受けた老人ホームだけが「介護付き(ケア付き)有料老人ホームと標榜できる。
介護付きには「一般型」と「外部サービス利用型」がある。
指定地域密着型サービスの事業として指定される場合は「地域密着型特定施設入居者生活介護」と呼称する。